第1話
人材育成の大切さ、高齢者を守り救う
「減災」能力の高い地域社会づくりへ。
東日本大震災では、市町村職員の3分の1がお亡くなりになられた自治体もあり、過疎化している町も多くて、専門家の不足、あるいは民間企業の人手不足がネックになっていて復興が思うように進んでいない現状があります。
これは財源がないのではなく、基本的に必要な人材が不足しているということが何よりのネックになっています。
ご承知のようにこの10年で公共事業費が約2分の1になりました。それによって土木関連企業の技術者がずいぶん減っています。そういった環境下のもと、今回のような巨大災害に見舞われると、緊急事態を打開するためには知識・知恵を持った人間、技術を持った人間の力が不可欠なのですが、圧倒的に数が足りずに動きが取れない事態に陥ってしまいます。
災害に強い国や街づくりは、被災を防ぐ活動だけでなく、被災後に出来るだけ早く元通りの生活ができるように復旧復興できる力を常日頃から養っているレジリエンス能力の高い国や街にしなければいけないのです。そのためには、きちんと人材が育成され、常に実践に役立つ能力を維持してゆくことが地域社会には必要です。
そういったことを考えると、今回学ぶべきことはコスト面だけ経済偏重だけで街づくりや国づくりを考えてはいけないという一つの教訓でもある訳です。時間がかかってもコストを要しても、しっかりした人材を育て、日々能力を高める努力を惜しまないことが大切です。
高齢者住宅や介護施設を事業運営される皆様も人手不足や人材育成に悪戦奮闘されながら経営努力されていることと存じます。
高齢者が全人口の1/4を占める超高齢社会の日本では、その施設環境の不足が問題視されていますが、我々災害研究関係サイドから見ると、非常事態には高齢者を支援しサポートする人材や機関および地域コミュニティのネットワークなど、ソフト面でのインフラ整備がとても重要です。
高齢者の方を支援して社会使命を遂行しようとされている民間事業者の方々の役割は、被害を減らそうと取り組む「減災社会」には不可欠な力です。
皆様の事業活動を通じて、災害時に高齢者を守り救う人材が育ち、高齢者家族の方々とのコミュニケーションを通じて地域コミュニティが育まれ、地域社会で助け合う「共助ネットワーク」が広がり、日本の「減災活動」が普及することを期待してやみません。日常に行われていないことはイザという時に出来るはずがありません。
日々、高齢者の方々に接してサポートされる方々のノウハウが地域に根づくことこそ高齢社会ニッポンの「減災」能力を高めることなのです。
河田恵昭氏 Profile
京都大学名誉教授。関西大学社会安全学部・社会安全研究センター長・特別任命教授。工学博士。専門は防災、減災、縮災。阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長(兼務)のほか京大防災研究所長を歴任。21世紀COE拠点形成プログラム「災害学理の解明と防災学の構築」拠点リーダー。大都市大震災軽減化プログラム(文部科学省)研究代表者。南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ座長。熊本地震有識者会議メンバー。(2019年3月現在)